「Hey! 武田のオッサン、遊びに来たぜ!」
「相変わらずじゃな、伊達の小倅よ! まあ、ゆっくりとしていくがよい」
「Ha-ha! 最初っからそのつもりだから安心しな」
傍若無人、まるで遠慮がない竜の旦那の言葉にも、大将は豪快な笑いを返すのみ。そうなることを分かってて、竜の旦那も言ってるんだろうけど。
でも、ひっかかることがある。
いつもなら、真田の旦那が目当てというか、旦那と喧嘩するためにやって来ると言っても過言じゃない竜の旦那が、どうして大将に会いに来たのか―大将も、それを疑問に思っていたらしい。
「して、何用だ? わざわざワシに会いに来るほどの用向きなのじゃろう?」
「HA! やっぱり鋭いねえ。武田の姫さんとやらを見に来たのさ」
「なっ、政宗殿、寿々殿は見世物では御座らぬ!」
控えていた旦那が横から口を挟んだ。それに手を振って竜の旦那は否定する。
「Oh,sorry. そういう意味じゃねえ。伊達の求婚を断るのはいったいどんな姫さんなのか気になったんだ。何かワケでもあるのか?」
「寿々は生まれつき心の臓が悪くてな」
ややもすると無遠慮に思えるような竜の旦那の問いに、大将がそう返す。その一言で、大将の言わんとしていることをだいたい悟ったらしい。
「Hum...大切にされてるってことか。羨ましいねえ」
かの右目のせいで実母からの愛情を受けることが出来なかったらしい、と竜の旦那の境遇は聞いたことがある。だからこそこの言葉は自然と出てきたんだろう、けれど皮肉めいたものは感じられなかった。
「―幸村、佐助、案内してやれ」
「はっ!」
「わかりましたよーっと」
ここで竜の旦那と姫さんを会わせたら、婚姻その他諸々が姫さんの耳に入る前に潰してきた意味がなくなっちゃう気がするんだけど。うーん…大将がいいって言うんなら、大丈夫か、な。
「お願いだから、あんまり騒がしくしないでよ? 姫さんの身体に障ったら困るんだよねー」
「えらく過保護じゃねえか」
「そりゃあ、姫さんは俺様たちの大切な姫さんだからね」
「寿々殿とは、幼いころより一緒に育ってきたも同然なのだ!」
誇らしげに旦那が胸を張る。その様子を見た竜の旦那が笑った。
「では、少しだけ待っていてくだされ。先に寿々殿に話を」
「Okey. 早くしてくれよ?」
「寿々殿、入ってもよろしいか」
「幸村ね? 佐助もいるでしょ? 入って!」
旦那が声を掛け、姫さんが答える。
「今日は姫さんにお客さんだよー」
「わたしに? …わざわざ訪ねてきてくださる方なんて、誰かいたかしら」
まずは二人揃って入室して、さあ話を通そうかというところだったのに、
「こいつぁcuteな姫さんじゃねえか!」
…結局、来訪者が誰であるかを説明する暇もなく、竜の旦那が入ってきてしまった。うん、ぶっちゃけると想像できたね、この結果は。竜の旦那がおとなしく待ってることなんてできるはずがない。
「あ、ちょっと竜の旦那! いきなり入ってこないでよ!」
「竜…伊達政宗さま?」
突然の登場(それも見知らぬ男)にきょとんとしていた姫さんは、ややあってそう言った。
「Yes! 俺が奥州筆頭伊達政宗だ。よくわかったな」
「やっぱり! いつも幸村からお話を聞いていて、一度お会いしてみたかったの! はじめまして、伊達政宗公、寿々と申します」
「そんな堅苦しい呼び方は勘弁だ。政宗でいい」
「じゃあ、政宗さま」
「こんな別嬪さんを隠していたなんて、大将もなかなかやるねえ」
竜の旦那はさっそく姫さんと打ち解けたらしく(というか打ち解けるつもりらしく)、そばに座るとヒュウ、と口笛を吹いた。
姫さんは、竜の旦那をものめずらしそうにじっと見つめる。
「…武田にいる以外の男のひとを見るのははじめて、かも」
「こりゃ本物の箱入り娘だ。俺はお前さんの婿候補のひとりだ、よろしくな」
「婿候補って? 幸村、佐助、いったいどういうこと?」
あちゃー、ついにばれちゃったよ。いや、これは結構長い間隠せてたほうかな。うん、特に真田の旦那は頑張ったと思う。
「いや、これは、その、」
しどろもどろになる旦那の代わりに、俺様が答えることにした。このままじゃ埒が明かない…というか墓穴を掘られても困るし。
「つまり、姫さんに悪い虫がつかないよーにしてたの」
「じゃあ、お嫁入りのお話はあったってこと?」
「そういうこと、そういうこと」
「なあんだ、わたしもちゃんと父上のお役に立てるのね!」
うれしい、胸の前で指を組み喜ぶ姫さんはかなしいかな、これが戦国武将の娘として生まれてきた自分の使命だと思っている。
「いつでも歓迎するから嫁に来いよ、寿々」
「政宗さまはこうおっしゃっているけど…いい?」
遠慮なく姫さんの髪の毛をぐしゃぐしゃにする竜の旦那の視線は、どちらかというと妹のような存在に向けるものに感じられた。うかがうように姫さんがこちらに目をうつす。
「いーけーまーせーんー! 姫さんが竜に喰われるなんて、俺様耐えられない」
「まあ、佐助ったら!」
「な…! は、破廉恥だぞ佐助えぇええぇ!!」
「いや、旦那こそ何考えてるの」
「……お前、破廉恥なのか初心なのかはっきりしろよ」
二日後、鬼の形相をした右目の旦那が竜の旦那を迎えにきた。…執務を放り出して姫さんに会いにきていたらしい。その苦労、すこし分かる気がするよ。
また会いたいな、姫さんがそう言うから。こんな日々が続くものだと、信じていたのにね。