原作18巻あたりで、こんな会話があったらいいなという願望。いきなりはじまります。何も考えずに読んでね。

「約束だよ、恭弥。わたしが帰ってくるまで、この並盛を―」


「風紀委員を母体に財団かあ…どうしてヒバリさんって、そんなに並盛が好きなんだろう」
「教えてあげようか。沢田綱吉」
「ひ、ヒバリさん?! …と草壁さんも!(いつの間にっ)」
「なんだい、失礼なやつだね」
「いや、びっくりしただけです…」
「約束をしたからだよ」
「…やくそく?」
「そうさ。彼女とね」
「彼女…?」


 当時の並盛中学には、風紀委員長としてその名を馳せ、君臨している少女がいた。入学早々、前風紀委員長に決闘を申し込み、勝利の末にその座を奪い取った彼女の名を、如月鈴子という。秩序を乱す者は、たとえ年上であろうと容赦せず、逆に弱い者は助けるという自身の意思を徹底して貫く鈴子が風紀委員長になってからというもの、力にものを言わせて校内を闊歩する風紀委員は見られなくなり、並盛中学は平和だったという。そして3年の月日が過ぎ―


「僕が入学したんだ。もちろんすぐに、その風紀委員長の座を奪いに行ったさ。噂に聞いていたしね」
「(血なまぐさい風紀委員長の歴史…!)」
「トップは力で奪うものだろう?」
「で、結果は…」
「勝ったよ。強いものが勝利するのは当然だからね」


 再び、中学1年生にして並盛中学の秩序となる風紀委員長が生まれたのである。鈴子は、雲雀に負けたということで、あっさりと風紀委員長の座を明け渡したのだが、OGという名目でちょくちょく顔を出していた。受験も佳境に入った冬のある日、遊びに来ていた鈴子が唐突に言う。
「ねえ、恭弥。わたしね、卒業したら海外に行くんだ」
「なんで」
 突然の告白に不機嫌さを隠そうともせずに雲雀は尋ねたが、鈴子は肩をすくめて「わかんない」と答えるのみだった。
「わからないのに、海外に行くの? バカじゃない?」
「だって、お父さんが行けって言うんだよ。なんか、『将来確実にお前のためになるから』って」
「その父親、いまから咬み殺しに行こうか」
 物騒な雲雀の言葉にも、鈴子はただ笑い、言葉を続ける。
「お父さんは一足先に海外に行ってるよ」
「それは残念だな」
「わたしも並盛好きだから、離れるのはいやだなあ。恭弥もいるしね」
「…それ、どういう意味」
「そのままの意味。じゃ、今日は帰るね」
 ひらひらと手を振り、鈴子は部屋を出て行く。そして、卒業式までやって来ることはなかった。


鈴子さん、海外に…?!」
「自分勝手にもほどがあるよね」
「(ヒバリさんが言うと、素直に頷けないのはなんでだろう…)」


 春になり、卒業式を迎えた。もちろん雲雀は参加せず、いつものように屋上で昼寝をしていた。校内はがやがやと騒がしい。けれど、咬み殺しに行く気にもなれずに、雲雀は目を閉じる。するとそれを邪魔するかのように、さび付いた扉がきしむ音を立てた。
「こんなところにいたんだ」
「群れるのは嫌いだから」
「そんなことだろうと思ってたけど」
 すこし笑った鈴子は雲雀のとなりに座る。手には卒業証書の入った筒以外にも、可愛くラッピングされた袋をいくつか持っていて、胸には卒業を示す赤い花が一輪挿されていた。彼女の目元は、ほんのり赤い。
「後輩の子とか、いろんなひとがさ、たくさんプレゼントくれたんだよね。いままでのお礼です、って。風紀委員長お疲れ様でした、って。恭弥には負けちゃったけど。やってよかったなあ…」
 鈴子の独り言に、雲雀は答えない。
「風紀委員長は、恭弥に引き継いでもらったし! 群れてる子たちをボコボコにしようとするのは、ちょっと心配だけど…でもまあ、すっきりしてイタリアに行けるよ」
「…イタリア?」
「そう。イタリアに行くの、わたし」
「イタリアなんかに行って何するの」
「さあ…お父さんは『行ってからのお楽しみだ』だって」
「ふーん。やっぱり咬み殺そうか」
「…そうだ、約束しよう! 恭弥」
「何を」
「わたしが帰ってくるまで…何年かかるか分からないけど、この並盛を守ってね」
「言われなくても、そのつもりだけど」
「よかったあ! じゃあ、記念に写真撮ろ! ふたりで!」
「嫌だよ」
「そんなこと言わないでさ、わたしとの思い出、作ってやってよ」
 ポケットからカメラを取り出した鈴子を横目でちらりと見て、雲雀は小さくため息をついた。そして、むくりと起き上がる。鈴子は満足そうに笑った。
「うまく撮れるかな? これくらいの距離?」
「僕、眠いんだけど」
「もー、恭弥! 撮るよ! はいチー…」
 突然の雲雀の動作に、鈴子は言葉を言い切らないままシャッターを押してしまった。何が起きたか、いまいち分からない様子で彼女がぽかんとしているので、今度は雲雀がニヤリと笑う。
「ただで撮らせるわけないでしょ」
「え、ちょっと…! 変な顔で写ってたらどうするの! そしたら恭弥のせいだからね!!」
「それは鈴子が悪いよ」
「だ、だって、いきなりキスする?! あーあ!」


「…ヒバリさん、大胆ですね(あれ、たしか中1の話だよね…てか俺なんでこんな話聞いてるんだっけ)」
鈴子がイタリアに行くって言うのが癪だったから」
「(どんな理由?!)」
「まあ、3年後にあっさり帰ってきたんだけど」
「…彼女が並盛に戻ってきてからというもの、ふたりはラブラブでしたよ」
「それ、ホントなんですか?!」
 ええ、そりゃもう…と、草壁さんがほんのり頬を染めた。ガーン!なんで草壁さんが?!ヒバリさんがラブラブする相手なんて、想像できない…ラブラブする様子なんてもってのほかだよ!どんな女のひとなんだろう…?
「あの、鈴子さんはここにいるんですか?」
「いるよ。鈴子はきみたちと違ってバカじゃないからね。入れ替わったりしていないけど」
 フン、とヒバリさんが笑ったのとほぼ同時に、部屋のドアが開いて少女が駆け込んできた。見かけない顔だな…と思ったら。その女の子がとんでもないことを叫んだ。「いた!!! き、恭弥ぁぁぁ!」と。
 ヒバリさんのこと名前呼び?!ヒバリさんのほうを見ると、驚いているようで、わずかに目を見開いている。
「…鈴子
「えっ、この女の子が!?ウワサをすればカゲ?!(でも若いような……)」
「いいえ、これは10年前の姿です。おそらく、彼女も10年バズーカで」
 俺のこころを読んだかのように、草壁さんが答えた。ガーン!ヒバリさんが言った直後に!?10年前の鈴子、さん。思い描いていたよりも、かわいい、っていうかきれい?かっこいい?とりあえずヒバリさんみたいに怖くはない。このひとがヒバリさんの前の風紀委員長だったんだ…。全然見えないなあ。
「あれ、恭弥が大きい…?」
「18歳か…なつかしいね、鈴子
 ヒ、ヒバリさんがひとの頭撫でてる!口元がゆるんでる!瞳がやさしい!表情がまるで違うんだけど!!これがあの最凶ヒバリさん?!トンファー構えて、「咬み殺す」って言ってるときのヒバリさんじゃないよ!
「恭弥、ここどこ?なんで学ランじゃなくてスーツなの?」
「ここは10年後の世界だよ。こっちの鈴子と入れ替わったみたいだね」
「えー!!」
「まったく、きみはバカだね」
「(ヒバリさんさっき言ったことと矛盾してるし!)」
「ちょっと!年上に向かってその口の利き方はないんじゃない?」
「今は、僕のほうが年上だけどね」
「なにその余裕! 10年後のわたしはどうなってるの?」
「質問ばっかりだね。きみは僕と一緒にいればいいんだよ。おいで、鈴子
「本当ならわたしのほうが年上でしょ! もー!! ナマイキなのは全然変わってない!」
 そう言いながらも、鈴子さんはヒバリさんの差し出した手を取っている。あれ、なんか自然……。
「そういうことだよ。分かったかい? 沢田綱吉」
「分かったもなにも…カルチャーショックっていうか…なんていうか…」
 勝ち誇ったように宣言するヒバリさんと、ショックで何も言えない俺。(だって、ヒバリさんが! あのヒバリさんが!)そんな俺を一瞥すると、ヒバリさんと鈴子さんは部屋を出て行った。
「お、鬼の目にも涙ってやつ…?」
「いや、たぶん違うと思いますけど、言いたいことはわかります」
 草壁さんは、あの光景に慣れているらしく、冷静に突っ込んだ。慣れって怖い…!そして、草壁さんと俺もいたのに、すっかり二人の世界に入っていたあの人たち…すごいな……。

僕の愛する秩序

「にしても、恭弥、スーツ似合ってるね」

鈴子はウエディングドレス、似合ってたよ」

「…! ネタバレすんなバカ!」